まざってないのを確かめたいインド人|アタ粉とは(3)
写真左: 手動の石臼(チャッキ)/インド・ラジャスタン州
Photo taken by Roving-Aye! on July 6, 2010
写真右: 機械の石臼(チャッキ)/シンガポール・インド人街
Photo taken by Miikka Skaffari on May 28, 2006
※Flickrで公開されているクリエイティブ・コモンズ(著作権フリー)の写真から一部を切り抜いて使わせていただきました。
※小麦をひいてアタ粉にする石臼(チャッキ)がどんなものか見るには、Google画像検索で「atta chakki indian」と検索すると楽しい。著作権の関係でここには拝借できませんでしたが、面白い写真がいろいろありました。
さてさて・・・
「小麦粉のパッケージに見るインド|アタ粉とは(2)」の記事で、なぜ、市販のアタ粉のパッケージには「100% Atta 0% Maida」(これは100%アタ粉=全粒粉です、マイダ=精白した小麦粉はまざっていません)と強調されているのか?と書いたら、インド西部のプネ出身の方が教えてくださいました。
その方いわく、「マイダを使う理由の一つは値段です。マイダは基本的にアッタより安い。マイダにはどんな麦が使われてもいいです。アッタはそうはいきません。悪い麦を使えば色や香りでばれます。(中略)食べる側の健康を考えるとアッタは断トツ良いです。繊維がとれるからです。」
やはり、「0% Maida」の表示は「値段の安い、品質の悪い、繊維質/栄養の少ない精白小麦粉をまぜていません」という意味なんですね。
「アタ粉とは(2)」で紹介したAGMARKNETでも分かるとおり、小麦といってもいろんな品種があり、価格もピンキリです。
・精白してマイダにする場合は質の低い安い小麦を使ってもバレにくい
↓
・それを知っている消費者が「このアタ粉はマイダで薄めてあるのでは・・・」と疑念を抱く
↓
・「0%マイダ」ですよ、とパッケージで強調する必要が出てくる
というわけですね。
面白いなぁと思うのは「何かまぜてあるのでは・・・」という疑念をインドの消費者が抱くっていうところ。
実はスパイスを買う場合にも、重さや嵩をごまかすために砂や小石、木屑などをこっそりまぜているかもしれないから、と疑っているのを聞くことがあります。
スパイスにしても小麦にしても、自分でまずホール(ひいたりする前の丸ごとの状態)で買ってきて、それを近所の粉&スパイスひき屋さんに持っていって、目の前でひいてもらう・・・ということが今でも日常的に行われているようです。
ごまかしたりだましたりということは、人間ですから、インドでも日本でもやる人はやるし、やらない人はやらないとは思うのです。インドでは、「自家製」とか「目の前でひいてもらう」という選択肢がまだまだ手近にあるだけに、敏感になるのでしょうか。あるいは、実際に、人により立場によりコンプライアンスの感覚にばらつきが大きく、自分の身は自分で守らねばと思う人が多いのか・・・。
私など、物心ついたころから東京都心で育っており、食材と言えばどこかでパッケージされたものを買うしか選択肢のない人生でしたから、そんなことを疑っていたら何も食べられないよな~と思ってしまうんです。それはそれで、トーキョーという世界の片隅の暮らしに特有の思考なんだろうな・・・。何でも手に入って便利なようでいて、食材選択に主体性を発揮しにくいという意味では不便ともいえますね。
あるいは、「それをされると困る!」度合いがインドのほうが深刻なので、気にするのか・・・。
たとえば、日本人には大人気でファンも多いキーマカレー。ひき肉のカレーなのですが、私が通っているインド料理教室では、「キーマはインド人のお客さんをもてなすときに出してはいけません」と教わるのです。そもそも、ひき肉というのはブロックなどを切った後の端切れをひくから、余り物でおもてなしというのは良くないというのもあるわけですが、一番の問題は、何の肉が混ざっているかぱっと見て分からないからだそうです。
ヒンドゥの人たちは牛肉を食べないし、ムスリムは豚肉を食べない。「前に何の肉をひいたか分からない肉屋のひき肉器で、少しでも別の肉が混ざっているのを知らずに食べさせられるのはマジ困る!!!」というわけですね。
そういえば、これは日本の話ですが、私の母親は「何が混ざっているかわからないから」と、ひき肉料理はあまり好みませんでした。子どものころ、親(私の祖父母)に「ひき肉はダメ、お腹をこわすから」と言われて育ったらしい。世代としては終戦直後に生まれたベビーブーマーです。だから私にとって、友達の弁当に入っているミートボールはひそかな憧れでした(笑)
そういう、「消費者の思考パターン」って国や地域、時代、もちろん個々人によっても温度差があって、その皮膚感覚を捉えていくのはすごく面白いですよね。
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