日本で暮らすインド人の心に残る風景は
7月5日、インド料理教室キッチンスタジオ ペイズリーのインストラクターコースを修了しました。写真は実技試験で提出した3品のひとつで私の創作料理「梅見カレー」です。
創作にあたって与えられたお題は「梅干」。
10ヶ月間ともに修行した11期生7名は、梅干の味わいを活かした「インドカレー」を創りだすべく、各々何週間も試作を重ね、試行錯誤、七転八倒、いや七転び八起きか・・・。できあがった7つの「梅干カレー」が並んだところはなかなか壮観でした。
先生から梅干を使ったカレーを考えるように言われたとき、最初に思ったことは「タマリンドの代わりに梅干を使うという手合いは、つまんないからやめよう」ということ。タマリンドとはマメ科の植物で、熟して甘酸っぱくなった果肉は梅干に近い味。インドをはじめアジア各地の料理に広く使われています。今でこそアジア食材店やインターネットで買えますが、ひと昔前はそうもいかず、知恵を絞って梅干で代用ということもありました。
せっかく創作というなら「これは梅干で作らなきゃ」とインド人の友人に言ってもらえるカレーじゃないと面白くないでしょ?
友人・・・というときに脳裏にあったのは、以前うちの近所に住んでいたインド人一家です。旦那さんはITエンジニア。独身のうちから日本で働き、数年後にインドで結婚式を挙げ、奥さんを連れてきて・・・。来日ほやほやの奥さんと私が知り合い、それから家族ぐるみのつきあいが始まりました。ほどなく生まれた赤ちゃんが、今では妹をかわいがる元気な小学生になりました。
お母さんのお腹にいるときからずっと日本で暮らすその子たちは、いつかインドに帰れば、日本で言う帰国子女ということになるのでしょうか。この先どこの国で暮らすにせよ、子ども時代をなつかしく思い出すとき眼裏に浮かぶのはこの日本の四季折々の景色なのだと思うと、なにか、深い思いにとらわれます。
日本で暮らすインドの人たちの眼に、この風土、暮らしはどのように映っているのだろう。日本の食材である梅干を活かしたインドカレーを考えるうち、そんなことを思い巡らしていました。
そういえば、うちの近所に桜の名所があるのですが、ある年、レジャーシートの隙間を縫って歩きながら、ふと目を上げるとインド人の一団が花見をしていました。まだインド料理の勉強など始める前、インド人の知り合いもいない頃のこと。この人たち、花見というものを体験してみようと思ったのかしら、それともインドにも似たような習慣があるのだろうかと驚いたのでした。
友人一家も、電車に乗ってわざわざどこか遠くまで、花畑の広がる公園に行った写真を見せてくれたことがあります。観光地ならもっといろいろあるのに、こういうところを選ぶんだなぁと思ったっけ・・・
インドとは花の種類も違うし、日本で暮らしたからこそ味わえた楽しい思い出の中に「花を観る」っていうのがあるのかも・・・
よし、創作インドカレーのテーマは花見!
ただし、桜じゃなくて梅見。お題は梅干ですからね・・・(笑)
それに私は花見といえば桜より梅を観るのが断然好きなんです。
いつか、友人の子どもたちが大きくなったら、2月になるとこの梅見カレーを作るのです。「私が子ども時代を過ごした日本では、今の時期こんな花が咲くんだよ。ほっぺが冷たくなるほど寒くてね・・・でも、ほら、こんな甘い香りがして・・・梅干は手に入らないから、しょうがない、タマリンドで代用ね!」(笑)
そんな小さな物語を込め、拙い料理ではありますが日本で育つインド人の子どもたちを想ってレシピを書きました。
ちなみに、花は、牛乳とレモン汁で作ったパニール(チーズ)で、中に梅干のペーストなどがたっぷり入っています。
背景は、グリーンピースのカレーとカシュナッツのカレー。両方ともシンプルで、スパイスも最小限ですが、梅干の甘酸っぱい香りを引き立てるべく、野菜とナッツとスパイスの甘い香りの重ね使いにこだわりました。
境目を曲線にしたのは光琳の「紅白梅図屏風」風(笑)のつもりなんだけど盛り付けがちょっと・・・へへへ
模索したのはカレーの色です。トマトを入れると緑や黄色が濁ってしまうので・・・。つい、ベースは「玉ねぎ+トマト」のゴールデン・コンビに頼りたくなるのですが、いろいろ実験してトマトに代わる相棒を探してみました。
あわせる主食はプーリー(揚げパンのようなもの)で。